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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

鰻屋の前を通って、好い匂がしたと云っても、直ぐに隣の茶漬屋へ駈込みの、箸を持ちながら嗅ぐ事をしない以上は、速断して、伊勢屋だとは言憎い。

主税とても、ただ通りがかりに、露店の古本の中にあった三世相が目を遮ったから、見たばかりだ、と言えばそれまでである。けれども、渠は目下誰かの縁談に就いて、配慮しつつあるのではないか。しかも開けて見ている処が――夫婦相性の事――は棄置かれぬ。

且つその顔色が、紋附の羽織で、の厚い内君と、水兵服の坊やを連れて、別に一人抱いて、鮨にしようか、汁粉にしようか、と歩行っている紳士のような、平和な、楽しげなものではなく、主税は何か、思い屈した、沈んだ、憂わしげな色が見える。

好男子世に処して、屈託そうな面色で、露店の三世相を繰るとなると、柳の下に掌を見せる、八卦の亡者と大差はない、迷いはむしろそれ以上である。

所以ある哉、主税のその面上の雲は、河野英吉と床の間の矢車草……お妙の花を争った時から、早やその影が懸ったのであった。その時はお蔦の機知で、柔能く強を制することを得たのだから、例なら、いや、女房は持つべきものだ、と差対いで祝杯を挙げかねないのが、冴えない顔をしながら、湯は込んでいたか、と聞いて、フイと出掛けた様子も、その縁談を聞いた耳を、水道の水で洗わんと欲する趣があった。