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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

「大きに、お世話、御主人様から頂きます。」

「あれ、見や、島田を揺ってら。」

「ちょいと、番ごといがみあっていないでさ。お源や、お客様に御飯が出そうかい。」

「いかがでございますか、婦人の方ですから、そんなに、お手間は取れますまい。」

三

「だってお前、急に帰りそうもないじゃないか。」

と云って、め組の蓋を払った盤台を差覗くと、鯛の濡色輝いて、広重の絵を見る風情、柳の影は映らぬが、河岸の朝の月影は、まだその鱗に消えないのである。

俎板をポンと渡すと、目の下一尺の鮮紅、反を打って飜然と乗る。

とろんこの目には似ず、キラリと出刃を真名箸の構に取って、

「刺身かい。」

「そうね、」

とお蔦は、半纏の袖を合わせて、ちょっと傾く。

「焼きねえ、昨日も刺身だったから……」

と腰を入れると腕の冴、颯と吹いて、鱗がぱらぱら。

「ついでに少々お焼きなさいますなぞもまた、へへへへへ、お宜しゅうございましょう。御婦人のお客で、お二階じゃ大層お話が持てますそうでございますから。」

「憚様。お客は旦那様のお友達の母様でございます。」

めの字が鯛をおろす形は、いつ見てもしみじみ可い、と評判の手つきに見惚れながら、お源が引取って口を入れる。