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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

直ぐ分った。

本名坂田礼之進、通り名をアバ大人、誰か早口な男がタの字を落した。ゆっくり言えばアバタ大人、どちらでもよく通る。通りが可ければと言って、渾名を名刺に書くものはない。手札は立派に、坂田礼之進……傍へ羅馬字で、L. Sakata.

すなわち歴々の道学者先生である。

渠の道学は、宗教的ではない、倫理的、むしろ男女交際的である。とともに、その痘痕と、細君が若うして且つ美であるのをもって、処々の講堂においても、演説会においても、音に聞えた君子である。

謂うまでもなく道徳円満、ただしその細君は三度目で、前の二人とも若死をして、目下のがまた顔色が近来、蒼い。

と云ってあえて君子の徳を傷けるのではない、が、要のないお饒舌をするわけではない。大人は、自分には二度まで夫人を殺しただけ、盞の数の三々九度、三度の松風、ささんざの二十七度で、婚姻の事には馴れてござる。

処へ、名にし負う道学者と来て、天下この位信用すべき媒妁人は少いから、呉も越も隔てなく口を利いて巧く纏める。従うて諸家の閨門に出入すること頻繁にして時々厭らしい! と云う風説を聞く。その袖を曳いたり、手を握ったりするのが、いわゆる男女交際的で、この男の余徳であろう。