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よめとりにだいき

嫁取り二代記

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,763 字 · 23 页

青空文庫

部屋の内は塵ひとつ留めず、きちんと片付いた床に、古風な錆着きの鉄鉢に鮮かな「つるもどき」の紅と黄がはぜていた、――心憎い手並だ。

「――お口汚しでございます」

茶を淹れて出す、――見ると盆の上に香の物が添えてある。

「これは香の物だな」

「はい……」

勘兵衛は苦々しげに、

「町家は知らぬこと、武家では茶うけに香の物などと云う事はないぞ、他人が見たら牧屋の恥になる、そのくらいの所存はありそうなものではないか」

「心付かぬ事をいたしました、今後は注意仕りますゆえ、どうぞ御免くださりませ」

「折角じゃ、今日は引かずともよい」

そう云いながら箸を執る、一切口へ入れて勘兵衛が驚いた、恐ろしく旨いのである、妻が生きていた頃にも、かつて一度――これは旨いと思ったことのない香の物である、ことにこの数年はまるで漬物などに興味も持たなかったが、その一切は全く舌を驚かした。

「これはそちが漬けたか」

「はい、ほんの真似事に……」

勘兵衛は茶を代えながら、無理に気むずかしく空咳をして、

「話は違うが、いったいその方は直次郎をどう考えておるのか」

「――と仰せられますと?」

「直次郎はわしにその方を娶ってくれと申した」