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よめとりにだいき

嫁取り二代記

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,763 字 · 23 页

青空文庫

勘兵衛に強いられて二三杯舐めたお笛は、眼蓋のあたりをほんのり染め、どことなく体つきに嬌めかしさが匂っていた。

「まあ一杯あいをせい」

「もう頂けませぬ」

お笛は三味線を置いて、「こんなに頬が熱くなりましたもの、お酌をさせて頂きまする」

「そう云わずと呑め、わしも久方振りで快く酔ってきた、もう唄は止めにしてこっちへ参れ」

「――はい」

素直に膝を寄せてくる、勘兵衛は酔眼を向けながら、

「芸妓の頃は小笛とか――云ったの」

「はい本名のお笛をそのまま」

「武家風に堅く粧ってこのくらい美しいのだから、その頃はさぞあでやかであったろう。どれ……もっとこっちを向いてみい」

羞いながら、すこしも悪びれずに笑顔を向けるお笛。勘兵衛はつと手を伸ばすと、女のしなやかな手首を握って、

「遠慮はいらぬ、ずっと寄れ」

そう云いながら引寄せた。拒むかと思ったが、相手はそのまま――嬉しそうにさえしながら膝をすり寄せる、むっと、鼻を撫でる温い肌の香。とたんに勘兵衛が、

「お笛!」

と鋭く云った、「人眼のない離室で酒をかこみ、例え直次郎の伯父ではあれ男のわしに、こう手を執られて拒まぬのみか、嬉しそうに体を寄せてくるその方の様子、――それが今まで潔白に身を持してきた女の態度か」