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よめとりにだいき

嫁取り二代記

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,763 字 · 23 页

青空文庫

「忝う存じまする」

女は韻の深い声で、低頭しながら云った、「不束者のわたくし、お慈悲に甘えてお世話さまになりまする、どうぞよろしゅう……」

「う、うん」

勘兵衛まごついて脇を向いたが、

「直次郎、ちっと来い」

と云って築山の方へ去った。直次郎は女へにこりと微笑み、心配するなと云うぜをしながら伯父の後を追った。――勘兵衛は近寄ってくる甥の面前へ華鋏を突出しながら、

「この野郎!」

と喚きたてた、「ならず者め、又してもわしをはめおったな、あれは何じゃ、女ではないかこの――」

「別に私は女でないとは申しませぬ」

「ないと云わんでも女でないと思わせるような風に云い拵えたで――ええ面倒臭い、だいたい未だ妻帯もせぬ身上で、どこの何者とも知れぬ女を」

「いや承知しております」

直次郎は逃げ腰になりながら云った、「彼女は新町の小笛と云う芸者です」

「な、な、なに――芸者?」

「芸者は芸者ですが血統は武家の出で、どこへ出しても恥しからぬ」

「この野郎――っ」

いきなり勘兵衛が掴みかかった。直次郎はひらりと躱して、咲きはじめた老梅の向うへ廻り込んだ、勘兵衛は苛って追う。

「待ちおれ!」