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こをつれて
子をつれて
葛西 善蔵
「早稲田文学」1918(大正7)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,970 字 · 34 页
と彼はだら/\流れ出る胸の汗を拭き/\、斯んなことを思いながら、息を切らして歩いて行った。左り側に彼が曾て雑誌の訪問記者として二三度お邪魔したことのある、実業家で、金持で、代議士の邸宅があった。「やはり先生避暑にでも行ってるのだろうが、何と云っても彼奴等はいゝ生活をしているな」彼は羨ましいような、また憎くもあるような、結局芸術とか思想とか云ってても自分の生活なんて実に惨めで下らんもんだというような気がされて、彼は歩みを緩めて、コンクリートの塀の上にガラスの破片を突立てた広い門の中をジロ/\横目に見遣りながら、歩いて行ったのであった。が丁度その時、坂の向うから、大きな体格の白服の巡査が、剣をガチン/\鳴らしながらのそり/\やって来た。顔も体格に相応して大きな角張った顔で、鬚が頬骨の外へ出てる程長く跳ねて、頬鬚の無い鍾馗そのまゝの厳めしい顔をしていた。処が彼が瞥と何気なしに其巡査の顔を見ると、巡査が真直ぐに彼の顔に鋭い視線を向けて、厭に横柄なのそり/\した歩き振りでやって来てるので、彼は何ということなしに身内の汗の冷めたくなるのを感じた。彼は別に法律に触れるようなことをしてる身に憶えないが、さりとて問い詰められては間誤つくようなこともあるだろうし、またどんな嫌疑で――彼の見すぼらしい服装だけでもそれに値いし