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こども・こども・こどものモスクワ

子供・子供・子供のモスクワ

宮本 百合子

「改造」1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,440 字 · 33 页

青空文庫

これはソヴェトで「私の知り合い」という言葉と同様二重の意味をもっている。

ホテルの台所である。正面に白樺薪で沸かすニッケルの大湯沸しが立っている。テーブルがある。まだ洗われない皿がそこに山と積んである。あたりは小ざっぱりしているがそれ等の皿の上をのぼったり下りたりして蠅がうんと這っていた。蠅は、電燈の下で皿がうごめくように黒くしずかに這いまわっている。

そういうテーブルの片隅で、日本女が砂糖のかたまりを胡桃割でわっていた。砂糖はパン、肉、茶、石鹸、石油などと一緒に人別手帳によって一ヵ月に一キロ半買うことができる。けれども、かたまりが大きくてそのまま茶のコップには入れられない。胡桃割は割るべき胡桃とともに今モスクワじゅうの金物屋から姿を消しているから、ホテルの台所で、ホテルにもたった一つのその道具をかりて、日本にはない砂糖わりという仕事にとりかかる。

(大体ソヴェトのホテル住人ぐらい、台所と、率直な家庭的関係を保っているものはあるまい。※(始め二重括弧、1-2-54)英語の通訳、ドイツ語の通訳が玄関を飛び交うサヴォイやグランド・ホテルは例外である。そこは、ソヴェトのただ狭い客間である※(終わり二重括弧、1-2-55)。一九二八年代、どこのホテルの廊下ででも給仕男が大きな盆に茶や食物やをのっけ、汗だくで運んで