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ボンベイそうわ

孟買挿話

吉行 エイスケ

「文芸都市」昭和4年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,299 字 · 20 页

青空文庫

――貴方がおわらいになるのも無理もないのですが、しかし赤丸平家は日本の独身者の集合所なのです。(孟買には若い夫婦者は皆無と云っていいのです。家庭の女には東洋の深い皺が彫刻されたように滲みこんでいます)私達は最初土人街のネパール女のエキゾティズムに感歎するのですが、その感歎はまるで波斯をセイロンの旗立てた漁船みたいな潜航艇で潜航しているようなものなのです。次いで私達は街に出て、印度の花、欧風化された女の嬌態、近世のパーシ女に袖を引かれて茶店に出入するのですが、私達日本の男子で印度のフラッパ女に靴の紐など結ぶように命令されて、諾々としているような非国民は一人だっていないのです。ですから、たとえ英国種の牝犬であろうとも近代的な同胞の女の奔放な脚をみて私達は気狂いのように騒ぐのです。

――土人街の日本の坊主頭から苦情は出ないのですか。

すると彼は熱帯地の植物のような息を私に吐きかけて、

――どうか、なぶらないでください。私達はアダによって訓練されたいとさえ思うほどです。アダの声音は印度の夜の国境、ヒンズークシ山脈の下をアフガニスタンに向って疾走する急行列車にもまして叡智がひらめくのです。