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こどくしゃのあい

孤独者の愛

豊島 与志雄

「世界春秋」1950(昭和25)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,723 字 · 18 页

青空文庫

私にはもう到底、理解が出来ない。私の思いも及ばないようなものがあるのであろう。彼女は私の胸へぐんぐん寄りかかってき、全身の重みをぶっつけてきた。乱暴だ。不用意に私は転げ、彼女も転げた。転げながら、私の胸をどんどん叩いた。その手をはねのけて私は起き上った。彼女も起きて、ウイスキーをあおった。

「松井さん!」

眼に病的とも言える陰を宿して、唇を少し歪めている。

「あなたの頬っぺたをなぐったら……どうなさる。」

愚問には答えないに限る。私は黙って、ウイスキーを飲んだ。

「わたし、もうくにへ帰るのはやめます。その代り、あばれてやるから。」

眼にいっぱい涙をためて、洟をすすった。

「癪にさわる。……あなたのおかげで、わたし、だめになっちゃった。……どうして下さるの。」

いつもとまるで調子が違って、酔狂の沙汰だ。

「いいわ、あばれてやるから。」

じっと眼を据えて、飲み干したグラスを卓上にころがし、指先でぐるりぐるり動かしている。

私は仰向けに寝ころがった。

「もうわたしのことなんか、どうでもいいのね。わかりました。そんなら、帰ります。」

その言葉が、ふいに、私の憤りを誘った。