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こどくしゃのあい

孤独者の愛

豊島 与志雄

「世界春秋」1950(昭和25)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,723 字 · 18 页

青空文庫

彼女の方でも、なにかに憑かれてるかのようである。

次第に私の胸は騒ぎだした。彼女は私の家の方へやって来るのだ。だが、やがて私は、ふしぎと、平静な気持ちに落着いた。彼女が今朝再び私を訪れてくることは、前から分っていたような思いがするし、私は彼女を迎いに行ったもののような思いもする。

彼女は電車から降りて、私の家の方へ曲って行く。もう遠慮はいらず、私はすぐ後に随った。

表の格子戸を開ける前、彼女はちらと振り向いた。私の顔をしげしげと、目ばたきもしないで眺めた。

突然、私は涙ぐんだ。それを押し隠して言った。

「早く、室へ行きましょう。」

室へ通ると、彼女はコートを脱ぎ、丁寧なお辞儀をした。

「どこへ行っていらしたの。」

私は頬笑んだ。

「加津美の近くをぐるぐる歩いていたよ。すると、君の姿が見えたので、跡をつけて来たのさ。」

「そう。」

彼女も頬笑んだ。眼のうちが凹んで、頬が蒼ざめている。

「とにかく、炬燵に火をいれよう。」

寒くはなかったが、やはり炬燵の方がよかった。茶をのみ炬燵にもぐって、私は彼女の指先を握りしめた。少し冷りとするその指先が、私の心に釘のように刺さってきて、もうどうにも掌から離せなかった。