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がくいについて

学位について

寺田 寅彦

「改造 第十六巻第五号」1934(昭和9)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,656 字 · 17 页

青空文庫

審査委員が如何に私情ないしは私利のためにもせよ、学位授与の価値の全然ないような低能な著者の、全然無価値かあるいは間違った論文に及第点をつけることが出来ると想像する人があれば、それは学術的論文というものの本質に関する知識の全く欠如している人に相違ないであろう。学術的論文というものは審査委員だけが内証でこっそり眼を通して、そっと金庫にしまうか焼き棄てるものではない。ちゃんとどこかの公私の発表機関で発表して学界の批評を受け得る形式のものとしなければならないように規定されているのである。それで、もしも審査に合格したある学位論文が、多くの学者の眼で見てなんらの価値がないものであったり、あるいは明白な誤謬に充ちたものであったとしたらどうであろう。たとえ公然と表立ってそれを指摘し攻撃する人がないとしても、それを審査し及第させた学者達は学界の環視の中に学者としての信用を失墜してしまわねばならないし、その学者の属する学団全体の信用をも害しない訳には行かない。従って審査委員自身は平気で涼しい顔をしていても、他の同僚が知らん顔をしてはいられなくなるであろう。

今度新聞で報ぜられた事件にしても事実は少しも知らないが、ただ問題となった学位論文が審査を及第通過している以上、その論文がともかくも学術上なんらかの価値あるものであり、