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がくいについて

学位について

寺田 寅彦

「改造 第十六巻第五号」1934(昭和9)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,656 字 · 17 页

青空文庫

それだけならば、まだしもであるが、困ったことには、各自が専門とする部門が斯学全体の中の一小部分であることをいつか忘れてしまって、自分の立場から見ただけのパースペクティヴによって、自分の専門が学全体を掩蔽するその見掛け上の主観的視像を客観的実在そのものと誤認するような傾向を生ずる恐れが多分にあるのである。平たく云えば、自分の専門以外の部門の事柄がつまらなく、自分の専門だけが異常に特別に重大に見えて来るのである。

さて、このように縮小された各学者の眼界の領域はほとんど十人十色であって、それらのおのおのの領域はある部分では互いに重合して共通していても、残りの部分ではみんな少しずつちがっているわけである。しかもそれらの人々が独創的であり見識家であるほど、その差別の程度も甚だしいのである。

ただ、一番始末のいい場合は、学問の本山であるところの西洋の第一流の大家達の統括の下に開拓され発達させられた一つの明確な区劃内に限られた部門の中で、かの地の誰やかれが既にかなりまでつつき廻した問題の一方面に若干の確実な貢献をしたというような種類の仕事が学位論文として提出された場合である。