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あんごのしんにほんちり
安吾の新日本地理
06 長崎チャンポン――九州の巻――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,780 字 · 43 页
彼の属するアウグスチノ会のグチエレス長老が、その前年に捕えられて入牢しておったが、まず次兵衛は竹中采女の別当に雇われることに成功した。竹中采女は長崎奉行であり、切支丹断圧の総元締のようなものだ。次兵衛はまんまとこの別当になり、自由に牢内に出入して、グチエレス長老の指図を仰いで伝道に奔走し、自分の乏しい給料で長老に食物を運んでいた。グチエレスは性格の甚だ温和な人らしく論争などを好まぬタチで性来虚弱であったそうだが、入牢後は特に衰えていたらしい。
グチエレスの死後は、彼が長崎の信徒の団体を支配した。昼は長崎奉行の別当をつとめ、夜になると、町々を村々を山野を走って告解をきき、洗礼を施し、教義を伝えた。そしてトマス次兵衛という日本人の神父があって長崎の切支丹を支配しているということは取締りの役人に知れていたが、彼が奉行の別当だということは数年間分らなかった。
一人の転向した絵師が信徒のフリをして教団に出入し、彼の顔を写生するのに成功し、そこで彼が奉行の別当をしていることも分ったものらしい。このときから次兵衛の逃亡生活がはじまったが、彼をかくまった容疑で五百余人が捕えられたが、彼のみは常に最後に煙の如くに掻き消えてしまう。