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あんごのしんにほんちり

安吾の新日本地理

坂口 安吾

01 安吾・伊勢神宮にゆく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,150 字 · 28 页

青空文庫

案内役の田川君には気の毒であるが、未だ夜の明けやらぬうちに神宮へ参拝して、行く手にミソギを行う怪人物の待つあれば我も亦ミソギして技を競い、耳の中から如意棒をとりだし、丁々発矢、雲をよび竜と化し、寸分油断なく後れとるまじと深く心に期していた。

内宮に歩いて二三分という近いところに「鮓久」という妙な名の旅館がある。未明に参拝するのだから、近い宿でないとグアイがわるい。そこへ到着、直ちに書店へ電話して「宇治山田市史」というような本がないかと問い合せるが、ハッキリしない。田川君業をにやして、山田孝雄先生宅へ走ろうとしたが、先生すでに仙台へ去ってなし。時に「鮓久」主人妙な一巻を女中に持たせてよこす。表紙には随筆と墨書してあるが、中味はペンで書いたものだ。ここの先々代が古老の話を書きとめておいたものである。これが大そう役に立った。なぜなら、この聞き書きは、神宮よりも主として市井の小祠について記されたもので、庚神だの道祖神などについて録されていたからだ。一例、次の如し。道祖神というものは、通例、道の岐れるところに在るものだが、宇治山田のはそうでなく何でもないところに在るのが多い。