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あんごじんせいあんない

安吾人生案内

坂口 安吾

06 その六 暗い哉 東洋よ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,066 字 · 26 页

青空文庫

特に老後を考えるような、人生の晩年にさしかかった以後の人々に於ては。

しかし、菊乃さんのような悲劇は方々にありそうだなア。当人は至極無邪気に、下賤の者、無学の者に、死しても瞑すべき名誉ある愛情や地位を与えてやったと思いこんでいる善人が少くないようですね。どんな人間にも、自分と同じく切実な人生があることをてんで知らずに、ただもう賤の女を助けてやったと陶酔している。助けられ、安定したのは自分だけじゃないか。第一、下賤な人間という考え方が、菊乃さんの悲劇の真相をあますなく語っているが、当人ならびに同類だけには分らない。漢学という学問が、だいたいに、真理を究める学問ではなくて、王サマの御用を論理の本筋としているもののようだから、そういう論理を体した人には人間は分らない。人間の本当の心と喰いちごうのは仕方がない宿命、まさに宿命のようです。

菊乃さんは音もなく影のように静かに自ら永遠に去ったけれども、ガラッ八の私は喚きちらすように、叫びたいよ。菊乃は満足していた、死ぬ理由は一ツもないとは何事ですか。賤の女に死すとも瞑すべき名誉を与えたという一言が菊乃さんの悲劇の真相をすべて語っているのが分らんのですか。