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あんごこうだん
安吾巷談
10 世界新記録病
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 13,419 字 · 27 页
当時は外苑競技場が未完成で、日本の主要な競技会は駒場農大の二百八十米コースの柔くてデコボコだらけのところでやる。排水に意を用いたところなどミジンもないから、雨がふると、ひどい。走高跳の決勝に六人残って、これから跳びはじめるという時に、大雨がふってきた。六人のうち五人は左足でふみきる。拙者一人、右足でふみきる。助走路は五対一にドロンコとなり、五人は水タマリの中でふみきるが、私はそうでないところでふみきるから、楽々と勝った。実際はその柄ではない。力量の相違というものは、マグレで勝っても、よく分って、勝った気持がしないものだ。あのころの中学生は強豪ぞろいで、短距離の高木、ジャンプの織田、南部、いずれも中学生にして日本の第一人者であった。こういう天才と私とでは、力量の差がハッキリしすぎて、面白くなかったな。雨のオカゲで勝ったりしたが、とても勝てないと分ってみると二度とそんなことをやる気がしなくなるものだ。
後年、ワセダに田中という走高跳の選手が現れたが、身長と跳んだ高さの比率では、この先生が世界一だろうと思う。二メートル跳ばないと一人前じゃないから、小男ぞろいの日本でも、走高跳というと、六尺前後の大男に限って一流選手になりうるのが普通である。