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あんじゅうこん
安重根
谷 譲次
――十四の場面――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页
消す手真似をして出て行く。安重根は引っ返して洋燈を吹き消し、急ぎ足に李剛のあとを追って出る。
5
港の見える丘。前の場のすぐ後。
砂に雑草が生えている。暗黒。崖縁の立樹を通して、はるか眼下に港が見える。碇泊船の灯。かすかに起重機の音。星明り。
安重根と李剛が話しながら出て来る。安重根は行李を抱え、李剛は跛足を引き、パイプをふかしている。
李剛 朝鮮の着物には個性がないからねえ、忍術には持ってこいだよ。
安重根 何と言いましたっけね、あの角の床屋、来ましたか。
李剛 張首明か。(港に向って草の上に腰を下ろす)歩くのは降参だ。うむ。来たよ。あの男の言葉から、僕は君の意思を察したつもりで、ああして皆を外出させて待っていたのだ。
安重根 (並んで坐る)今朝着いて、あの床屋の店で徳淳に会ったきり、どこへも顔出しせずに、午後いっぱい買物をしていました。ちょっと旅行に出るもんですから、着物や何か――。(行李を叩いて)今夜一晩、黄成鎬さんのところへ泊って、明日発ちます。
李剛 あした発つ? それはまた急だねえ。だが、日本の客は予定よりすこし早く着くことになった様子だから、なるほど。