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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

僕には言えない。(台所のドアに向って大声に繰り返す)

国民たる義務を尽さずして

無為平安に坐せんには

国本確立は自ら成ることなかるべし

一同呆然と、台所のドアと禹徳淳を交互に見守る時、硝子窓を荒々しく開けて朴鳳錫が顔を出す。

朴鳳錫 (大声に)スパイは来ていないか。(同志一、二ら多勢窓際に駈け寄る)

同志一 スパイ――?

朴鳳錫 安のやつだ。安重根はスパイなんだ。

とドアから駈け込んで来る。一同は罵り噪いで取り巻く。

朴鳳錫 張首明と通じているんだ。あの床屋の張よ。先刻あいつがやって来て露れたんだが、おれは前から知っていた。安重根のやつ、伊藤公暗殺などと与太を放送しときゃがって、それを種に、おれたちの機密に食い込もうとしていたんだ。だから、いよいよというこの土壇場に、伊藤を殺っつける気なんかこれっぽっちもありゃあしない。(禹徳淳を見て)なあ徳淳、そうだろう? おれは今まで、李先生の命令で張の店を見張っていたが、白基竜は――。(白基竜を認めて)お! 白! 野郎いたか、停車場に。

白基竜は無言で閉めきった台所の扉を指さす。

朴鳳錫 台所にいるのか。何故みんな――畜生!

一同激昂のうちに朴鳳錫はドアへ突進する。