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あんじゅうこん
安重根
谷 譲次
――十四の場面――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页
教会の尖塔がくっきり見えて、凹凸の石畳の下手に電柱が一本よろけている。
劉任瞻――医師兼薬剤師。老人、ロシアの農民風の服装。
劉東夏――その息子。十八歳。ルバシカに露兵の軍帽をかぶっている。
安重根、禹徳淳、柳麗玉、隣家の古着屋の老婆、ロシア人、支那人、朝鮮人等の男女の通行人。
夕闇の迫る騒がしい往来。店の前の椅子に劉任瞻が腰かけて、小笊」]に盛った穀物を両手に揉んでは、笊を揺すって籾殻を吹いている。ロシア人の裸足の子供の一隊、市場へ買出しに行った朝鮮人の女房二三、工場帰りの支那人職工の群などあわただしく通る。劉任瞻に挨拶して行く者もある。ロシア人の巡邏が長剣を鳴らして通り過ぎる。手風琴に合わして朝鮮唄の哀調が漂って来る。隣家の古着屋の老婆が、洋燈のほやを掃除しながら、店先いっぱいに古着の下がった間から顔を出す。
老婆 劉さんかね。もうランプを点けなさいよ。東夏さんはいないのかえ。
劉任瞻 馬鹿な野郎だ。先刻まだ早いうちに、また独立党の会があるとか言ってな、出かけて行ったきり帰らないのだ。帰って来たらどなりつけてやろうと思って、ここに出張って待っているのさ。