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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

ハルビンは若い者の長くおるところじゃない。

劉東夏 (気が急いて)え。すぐ帰ります。じゃ、行ってまいります。

走り去る。

11

十月二十三日、夜中。ハルビン埠頭区レスナヤ街、曹道先洗濯店。

屋上の物乾し台。屋根の上に木を渡して設えたる相当広き物乾し。丸太、竹の類を架けて、取り込み残した洗濯物が二三、夜露に湿って下っている。下は、いっぱいに近隣の屋根。物乾し場の下手向う隅に昇降口、屋根を伝わって梯子あり。遠く近く家々の窓の灯が消えて往く。一面の星空、半闇。

曹道先――洗濯屋の主人。情を知って安重根のために働いている。四十歳前後。カラーなしで古い背広服を着ている。

ニイナ・ラファロヴナ――曹道先妻、若きロシア婦人。

金成白――近所の朝鮮雑貨商。安重根の個人的知人。朝鮮服。三十歳ぐらい。

他に安重根、禹徳淳、柳麗玉、劉東夏。

物乾し台の一隅に安重根と柳麗玉がめいめい毛布をかぶって、肩を押し合ってしゃがんでいる。長いことそうして話しこんでいる様子。足許にカンテラを一つ置き、一条の光りが横に長く倒れている。

安重根 (露地や往来が気になるごとく、凭りかかっている手摺りからしきりに下を覗きながら)だからさ、僕が伊藤を殺っつける――とすると、それはあくまで僕自身の選択でやるんだ。