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あんじゅうこん
安重根
谷 譲次
――十四の場面――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页
御存じの支那の竜門から産ると言われていた視力若返りの霊剤、あれなんかもじつはこの満洲蛇の油だということが、最近偉い博士先生方の御研究によって判明をいたしました。何にきくかと言うと――眼の悪い人はいないかね? 眼の悪い人は前へ出なさい。老眼、近眼、あるいは乱視といって物がいくつにも見える。捨てて置いてはいけない。それから脳病一般、リュウマチス、それに喘息だ。この喘息という病は、今日の医学界ではまだその病源についていろいろと説があって、したがって治療法も発見されておりません。学者先生が多勢お集まりになって、腕を拱んで首を捻っていなさる。はて、わからねえ――。
薬売りは腕を組んで、首を捻って考え込む態をする。群集はすっかり安重根に背中を向けて、薬売りを取りまいて熱心に聴き入っている。低い塀の上にも、中から覗いている顔がいくつも並んでいる。安重根は憮然として群集を凝視めている。
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同年十月十七日、午前十時ごろ。
ウラジオストック、朝鮮人街、鶏林理髪店の土間。罅のはいった大鏡二つ。粗末な椅子器具等、すべて裏町の床屋らしき造り。入口に近く、卓子腰掛けなどあって、順番を待つ場所になっている。