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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页
葦城の次男で、いま満州の新京へ行っている敏夫が、まだ三、四歳の坊やのころである。この坊やは毎日、書生の頼母木をつかまえては、馬になれ馬になれとせがんだ。
頼母木は、坊やにせがまれるままに畳の上へ四ん這いになった。そして、手拭の真ん中を口にくわえると背中の坊やは、その両端を手綱にとって、はいはいと声をかける。かくして、頼母木は座敷中を這いまわったのである。
ある朝、坊やは頼母木の背中の上でおしっこをやってしまった。古い小倉の袴の腰板の縁をとおして袷へ泌み込み、背の肌に生温かく感じた。と、同時に無常観が頼母木の頭を掠めた。次の瞬間には、清徹な神気が激しく反発していた。
葦城邸を頼母木が飛び出したのは、その日の夕方であった。このころから、頼母木の心臓は成長をはじめたのであった。
ある一説には、葦城夫人が頼母木少年の逞しい気魄に親しめないで、些細な落ち度を柄にとりお払い箱を喰わしたのであると伝える人もいるが、何れにしても頼母木は快い顔して葦城邸を飛び出したのではないのは事実らしい。後年このことを評して、葦城が頼母木の成人するまで面倒をみてやれなかったのは、遺憾であったと言った人があるけれど、この是非はとにかくとして頼母木を発奮させたのは葦城邸であるのは否定できまいと思う。