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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

だが、玄関派は無産党であるから印絆纒などだす訳にはゆかない。名刺に、認印を捺すわけにもゆかないのだ。こんなわけで、三木はなんとしても分が悪い。かれこれするうちに、頼母木と三木を対比して、正閏論まで起こるありさまとなった。三木の運動困難と苦心は測り知るべきであろう。

ところへ持ってきて、投票日二日前の夜に総理大臣がでて、頼母木の応援演説をするという報に接したのだ。もう、黙ってはいられない。三木は、あの四角の顔と大きな口で伯爵邸へ飛び込んだ。

『総理、閣下は私には応援演説をしてくれぬお考えですか』

と、三木はどしんと大隈にぶつかった。

『いや、わしは自党の候補なら誰でもかまわん。わしは、公平じゃ』

『そうでしょう。それで私は安心しました。必ず私にも応援演説してくれますな』

『そうじゃ、じゃから、明晩にでも演説会場の用意をしたらええじゃろう』

と、伯爵は答えたのである。ところが、三木は困った。懐へ手を当ててみると、もう選挙費は殆ど使いはたして無一文にも等しい。頼母木に対抗して、なんで五百円もの使用料を要する演説会場など借りられようか。三木は窮した。だが、窮したが通じた。