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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页
あの、味品にまとう香気が抜けていた。肉の量は薄く抱卵は腹に一杯であった。これが盛暑の候であったなら、どんなに味品高い鮎であったろう。
羽前と羽後の国境の岩山から滴りでて、新庄の町の西北を流れる鮭川へも行ってみた。この川には、まだ数多い鮎がいた。そして、よく囮釣りに掛かるのを見た。けれども、この川の鮎には気品が乏しかったのである。肉がやわらかで、肌の色に清快を欠いている。もちろん、食味は上等とはいえない。
鮎が立派でないのは、この川の姿が物語っているのである。小国川と異なって鮭川に沿う地方には水田が多い。水田の落ち水を集めて下る川だけに、流れる水が麗明とはいえないのだ。ここに育つ鮎は、誰が見ても高尚であるとは考えられないと思う。
それに、川底に転積する玉石も小さい。また岸の崖に、泥炭の層が露出していた。鮎は、炭粉をことのほか嫌うのである。磐城の国には、幾本もの渓流が太平洋へ注いでいる。そして、どの川にも鮎が多い。ところが磐城の国の川の上流には、石炭の層が幾重にも断続していて、そこから流れ出る炭粉のために、鮎は香味の気品を備えぬのである。鮭川の鮎もそれと同じであった。