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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

それ故、そういう部分を目がけて彼と認め合おうとするものには、描ける餅とも霞の花とも頼りなく、感ぜられたに違いなかったであろうと思う。特に女性にとっては把手の無い器かも知れない。

ちょうど、慧鶴が清水禅叢にいた時分、清水の町に橘屋佐兵衛という呉服屋があった。一人娘があって、その頃の慧鶴とは二つ違いの十七だった。前の年の暮に江戸で行われた赤穂義士の復讐は、当時に在っても世間を震憾させる大事件だった。抜目のない興行師はそれを芝居に仕組んで名古屋を振り出しに地方の町をうって廻った。江戸市中はまだ公儀を憚って興行を避けていた。芝居はどこでも大入りで、見物の血を湧かせた。

この芝居が清水にもかかり、そして、忽ち町中の評判となったので、佐兵衛の娘も母に連れられて見物に行っていた。娘は二階に席を取って居た。慧鶴は丁度その真下に居た。

その前から酔っていた士が二階にいて頻りに管を巻いていたが、芝居が進んで茶屋場となり、由良之助が酒や女にうつつを抜かす態たらくを見ると、酔った士はそれを義士の首領の反間苦肉の策とは知りながらも、あまりその堕落振りが熱演されるので、我慢が仕切れなくなり、舞台に向って頻りに罵声を浴びせかけ始めた。