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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

それはむやみに慧鶴青年の良心に咎めた。救いに絶望してやぶれかぶれに享楽にしがみついて居る自分の姿が浅間しいものに顧みられた。

腹と頭ばかり大きくって、手足や胸は痩せ細り、腐った死屍の肉に取り付いて貪り食っている地獄の図の中の餓鬼は、取りも直さず自分に思えた。彼は湯に入ったとき自分の身体を撫で廻してみて、あまりに地獄の図の予言の形に適中しているのに怖くなった。そう想って来ると自分の直ぐ後に同じような浅間しい裸形で、頭の上にだけ高い島田髷を載せた橘屋の娘が頻りに何物かを自分に乞い求めて居る姿がまぼろしに浮んで見えた。慧鶴は叫び声をあげて、あわてて浴室から飛び出した。

一たん、そんな想いに取りつかれ出すと、慧鶴の心は水中へ取り落した皿のように傾き暗い底の方へ沈んで行った。見るもの聞くもの地獄の姿に外ならなくなった。夕ぐれ庫裡へ行燈の油を取りに行く僧も、薬石と名づけられる夕飯を取り囲んで箸を上げ下げしている衆僧も、饑え渇ける異形のものとしか見えなかった。彼は独居の部屋に閉じ籠り、頭を抱えて身悶えして呻吟くより外なかった。それでいながら経巻や仏像の影を見ることには前より一層厭嫌の感情を増した。