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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

果敢ない恋であった。それは彼女の本質にむしろ合っていた。ただその果敢ない恋の範囲内で満足した故に死に対しても何の心乱るるところもなく思い詰めたとはいうもののそれを程よい夢に化して夢の美しさに淡く酔いつつ、ほほ笑んでこの世を去って行ったのだ。それ程はっきり批判はつかぬ迄も只そんなけはいを感じてか彼女の母からも、みなあなたのお蔭、私よりも厚くお礼を申します。と彼女の母は手紙に賢く書いて寄越した。

慧鶴に取っては多少張り合い抜けの感がないでもなかった。娘が恋狂うとか恨み死にとかいうことでもあったら肝に堪える悲痛な嘆きに苦しみはすれ、男として得意のところもあろう。男一疋、女の胸中の恋人に幻影化され偶像にされ、病死の往生際の念仏代りになる。あまり名誉なことではない。それにつけても普通の人情には縁の薄い自分であることが判る。そうかといって、情から離れ去った光風霽月の身の上でもない。うすいうすい真綿の毛のような繋縛がいつも絡みついてたいして堕落へ引き込むという懸念も無い代りに綺麗に吹き払おうと思えばなかなか除きにくい、これが自分の性情の運命である。その意味からは橘屋の娘の恋愛関係も浅くおろかなものとも思えないようになって来て影の薄い女だけに、いじらしさも、また増して来る。