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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
おお! 死灰のようなあの富士が、彼女が! 怒り切ったあとにはこのような讃嘆の気持が彼の考えを支配した。それは何年の間か、その冷静をもって自分を焦らしていた彼女が、その偽りの仮面を捨て、真実を、感情を示して呉れたように思えた。自分の永い間の宿念の力がとうとう彼女の仮面を剥がしたようにも思えた。そう思って来ると雷の音と共に、あのむくむくと噴き上る白と黒の煙は、富士のではない。自分のである。今まで鬱積していた得体の判らぬ心情、それがあの煙となって渦巻き上っているのだ。むずん! ほっ! 何という太く逞しい自分の悪血の迸りだ。吐け、吐け。
慧鶴は何物とも知れぬ情念に狂える如く酔ってしまった。その酔いには濃淡があった。旧十一月の末のことだから、ときどき凍えるような西北の風が来て、あたりを掃いた。それが地震や雷の暇に来るときは寺囲いのはんの木の梢を鳴らし落葉を縁に吹き上げた。日頃の初冬と変らぬうすら冷い白々しい景色であった。そして向うを眺めると富士は雪の肩をぶるぶる顫わして稲妻入りの黒煙の群に覆われているのだ。それは異状な世界だった。そういうときは慧鶴には人間の自分と噴火しつつある富士とは別物に見えた。