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じっけんしつのきおく
実験室の記憶
中谷 宇吉郎
「図解科学」朝日新聞社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,440 字 · 13 页
キングスカレッジの地下室などは、その貧弱な例の方であった。その頃リチャードソンのところでは、長波長X線の研究が主としてなされていた。少し金のかかった装置というのは、五百ボルトの電池くらいのもので、あとは真空装置と電位計とがようやく実験の組数だけ揃っているという程度であった。
この仕事は、結局10-6ミリくらいの真空の中に、装置の主な部分を封入して、その中でいろいろな実験をして、その現象を外へ引き出した電線によって、電気的に測定することに帰した。それでかなり複雑な形の容器を全体高真空にひくというのが主な仕事であった。
今ならば、10-6ミリの真空はさほど驚くことでもないが、油拡散ポンプなどはもちろんまだ発明されておらず、ゲーデの三段の水銀拡散ポンプが、ようやく一般に用い出されていた時代だけに、この真空には随分骨を折らされたものであった。
真空技術のことを書いた本には、いろいろ詳しい記述があり、それを読むと、10-6ミリくらいの高真空は、何でもないように思われるかもしれない。特に、真空管の製作の場合には、それよりも一桁も二桁も高い真空が得られているようである。