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かていのひとへ
家庭の人へ
寺田 寅彦
「家庭」1931(昭和6)年6月(風呂の寒暖計)、12月(こわいものの征服)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,527 字 · 9 页
チャムバーレンという人が云った皮肉な詞に「日本人に独自なものは風呂桶とポエトリーだけだ」というのがある。その風呂なるものが実にはなはだ科学的には不合理不経済に出来ているものである。その不合理不経済なところにポエトリーはあるが現代には少し不向きである。
今日は暑くて九十度を越したなどとというあの寒暖計、体温が三十九度もあるなどというあの寒暖計、それから風呂を四十度にしてくれなどというあの寒暖計、いずれもみな物理学上でいうところの「温度」を測り示すものであるが、非科学的国民の頭には、この三つのものの示す温度がどうも別々のもののように感じられることもあるらしい。そのせいでもあるまいが、体温計とその度盛はたいそう大事がられ、風呂場の寒暖計はひどく虐待されるようである。
話は横道に外れるが、盥に入れた湯の湯気の上り方を見れば、だいたいの温度の見当がつくものである。しかしいつか赤ん坊をいきなり盥の熱湯に入れて、大火傷をさせた女の話を聞いたことがある。これなどはちょっと想像のつきかねることである。たぶんそのときだけ頭の内が留守になっていたのであろうと思う。
しかし風呂に限らず、われわれの日常生活でわれわれの科学的知識の欠乏のために色々な損失をし、色々な危険を冒していることは数え上げればその外にもずいぶん沢山にあるで