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かていのひとへ

家庭の人へ

寺田 寅彦

「家庭」1931(昭和6)年6月(風呂の寒暖計)、12月(こわいものの征服)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,527 字 · 9 页

青空文庫

中学校、高等学校で電気の学問を教わっても、この子供の頭に滲み込んだ恐ろしさはそう容易くは抜け切らなかった。しかし後に自分で電気に関する色々な「実験」を体験するようになってからは、こういう超自然的な感じはいつの間にか綺麗に消えてしまった。もっとも一つは年を取って神経が鈍くなったせいもあるかもしれないが、一つには自分が昔おどかされた雷の兄弟分と友達になって毎日のように一緒に遊ぶことになったためと思われる。こうして雷鳴に対する神秘的の恐ろしさがなくなりはしたが、たぶんその恐ろしさの変形したものと思われる好奇心と興味とはかえって増すばかりであった。「恐いもの見たし」という古い諺は、私の場合には普通の解釈よりももう少し込み入った意味をもって適用されることになったようである。それで雷鳴のする度ごとに私は厭かずに空を眺めては雲の形態や運動、電光の形状、時間関係、雷鳴の音響の経過等を観察するのが無上の楽しみになって来た。そうした雷の現象に関するあらゆる研究に興味を引かれてその方面の文献を、別に捜す気になるまでもなく、自然に渉猟するようになった。しかしどれほど色々の学者の研究の結果を調べてみても、私自身体験としての雷の観察から示唆されて日常に懐いている色々の疑問を満足に説明してくれるものは一つもない。