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かていのひとへ
家庭の人へ
寺田 寅彦
「家庭」1931(昭和6)年6月(風呂の寒暖計)、12月(こわいものの征服)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,527 字 · 9 页
もちろん烈震の際の危険は充分に分っているが、いかなる震度の時にいかなる場所にいかなる程度の危険があるかということの概念がはっきりしてしまえば、無用な恐怖と狼狽との代りに、それぞれの場合に対する臨機の所置ということがすぐに頭の中を占領してしまうのである。地震だなと思うと、すぐにその初期微動の長さの秒数を数えたり、主要動が始まればその方向や週期や振幅を出来るだけ確実に認識しようとする努力が先に立つ。そうしてそれをやっている間に同時にその地震の強弱程度が直観的にかなり明瞭に感知されるから、たいていの場合にはすっかり安心して落着いていられるのである。関東地震の起った瞬間に私は上野の二科会展覧会場の喫茶店で某画伯と話をしていた。初期微動があまり激しかったのでそれが主要動であると思っているうちに本当の主要動がやって来たときは少しはびっくりしない訳に行かなかった。しかしその最初の数秒の経過と、あの建物の揺れ工合とを見てからもうすっかり安心してしまった。そうしてすべての人達が屋外へ飛び出してしまった後に一人残って飲み残りの紅茶をなめながら振動の経過を出来るだけ詳細に観察しようと努力していた。