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とらひこのさくひん

寅彦の作品

中谷 宇吉郎

「毎日新聞」1955(昭和30)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,891 字 · 4 页

青空文庫

明治以後において、俳諧を最も深く味わった人は、寅彦かもしれない。「心の涼しさを現わす言葉」として、風流を解していた。

漱石を通じてかと思われるが、英国流のユーモアも、何気ない形で、方々にはいっている。ジャーナリズムの魔術を論じて、「例えば忠犬美譚で甲新聞が人気を呼ぶと、あとからあとからいろいろな忠犬物語が方々から出て来て、日本中犬だらけになり……」といった調子である。

日本の教養、西欧の文化、近代の科学、とこの三要素が、一人の人間の中に融合し、その全体を柔らかい情緒と深い愛とで包んだものが、寅彦の作品である。鴎外や漱石が、半ば古典的に感ぜられる若い読者には、寅彦がよく、明治大正の精神の一つの型を物語ってくれるであろう。

寅彦の随筆集は、初めの形では、今日容易に手に入らない。全集また然りである。手軽に入手出来るものは、岩波文庫の『寺田寅彦随筆集』五巻であろう。この中から三冊をとることも、全巻百数十編の随筆中から、三編を選ぶことも意味がない。それで寅彦を読んで見たいと思われる方には、この五巻をお奨めしたい。小宮先生の編まれたもので、よく寅彦の全貌を伝えている。