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ふじ

富士

岡本 かの子

「文芸」1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 页

青空文庫

家のことですから、お邪魔しましても、何かお妨げするような気もいたしますので、ついついご無沙汰勝ちになってしまったのでございますわ」

それからちょっと間を置き、

「ずいぶん、普通の女の子とは変っていらっしゃいますわね」

その言葉につれて良人の岳神も

「どういうものか、あの人の前へ出ると、威圧される気がするところから、つい心にもない肩肘の張り方をしてしまう。どうも姉弟ながらうち解けにくい」

と零した。

山の祖神が息子夫妻から衷情を披瀝したらしい言葉を聴いたのは、この姉娘に対する非難めく口振りを通してだけだった。

山の祖神はこれを聴くと、息子夫妻と一しょになって姉娘を非難したい気持なぞは微塵もなくなった。腹の中で、「この平凡な若夫婦に、何であの福慈の女神のことなぞが判るものか」と想いながら、こういう言葉で姉娘に関る話は打切りにした。

「なに、あれで、なかなか女らしいところもあるんだよ」と。

この山は人間が昵み易い山だった。水無川を越えて山腹にかけ山民の部落があった。石も多いがしかしそれに生え越して瑞々と茂った、赤松、樅、山毛欅の林間を抜けて峯と峯との間の鞍部に出られた。