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かんのうめ
寒の梅
宮本 百合子
「文芸」1939(昭和14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,819 字 · 8 页
おなかの丸みで、細い医療用の物尺がうまくおさまっていない。木村先生はベッドの裾の方から廻って窮屈な形に肱をつき、自分で物尺を持ってあてがいながら、ずーっとこの辺入るかね? と些か堅くなっている写真師の手元を熱心に見上げて居られる。自分の仕事にすっかりうちはまって集注的に単純になっている先生の様子はなかなか興味があった。そして共感をそそる味いに溢れている。
○ 午後、建物の内廊下を歩き初め。傷のところをぎゅっと抑えて歩く。それでも胃の方を引っぱるようで気分がわるい。いい加減で中止。
○ バラさん風呂。一人で椅子にかけ、窓の高いところから青い冬空と風にゆられている樹の梢を眺めている。廊下では例によってフランスのお爺さんと毛糸屋さんとが特徴のある年よりらしい甲高声で、何とか何とかネスパ? ああウイウイと話しながら往ったり来たりしている。
このごろは、体じゅう引き潮加減ながら調和した感じなのだが、まだ時々、肉体の内にのこっている衝撃のようなものが甦って来る。ああ苦しかったなあ、と思う。それにつれて、目の前の宙で何か透き徹って小さいものが実に容赦なくキュッキュッと廻って止った、という感じがする。