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てらだせんせいのついおく

寺田先生の追憶

中谷 宇吉郎

――大学卒業前後の思い出――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,152 字 · 26 页

青空文庫

「誰か耳の良い学生の人がいないかなあ、三味線はきっと面白いよ。それにあんなものわけなく弾けるようになるんだから。僕だって「松の緑」くらいなら弾けるよ」と先生は言っておられた。これは本気の話であって、先生の学校の部屋の隅には、赤い袋に入った三味線が暫く置いてあったが、結局誰もその方を志願する者がなくておしまいになってしまった。今から考えて見ると惜しいような気もする。

もっとも話はそんな題目ばかりとは限らなかった。時には実験の心得について、稀世の名教訓が出たり、現代の物理学の限界を論ぜられたりすることもあった。もっとも幽霊の話でも、どんな重大な問題の議論でも、先生はいつも同じ口調で話されるので、最後は大抵は先生のいわゆる「大気焔」になることが多かった。二、三十人も人が集ると、先生はもうもぞもぞと口の中で話されて何のことか分らないのであるが、二、三人の弟子たちを前に置いてその大気焔を揚げられる時は、非常な雄弁であった。毎日のことながら、いつも少々毒気を抜かれた形で一同が神妙にきいていると、先生は少しきまり悪そうににやにや笑いながら「どうも僕が来ると、実験の邪魔ばかりするようだね」