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てらだせんせいのついおく
寺田先生の追憶
中谷 宇吉郎
――大学卒業前後の思い出――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,152 字 · 26 页
という気になった。
M君は高等学校時代からの友人で、一緒に物理へはいって来ていたのであるが、そういうつもりならば一応問い合せてみようと言って、その長兄の意見を求めてくれた。ところがその返事が、私には天啓であった。別に変った意見が出たわけではないが、そういう偉い先生に個人的に接触する機会があるならそれを逃すのは損だ、卒業してからのことはまたその時になって考えたら良かろうというのである。
如何にももっともな意見なので、私は直ぐ賛成した。そして三年になると、一も二もなく先生の指導の下で、研究実験をすることに決めた。誠に他愛のない話であるが、若い時の考えなどは、あの大震災くらいのことでも随分影響されるものだと今になって思いみている。
ところであの時にM君の長兄から、それは良い考えだから是非真空管をやって、卒業したらうちの親戚の会社の方へ行くようにし給えという返事があったならば、私は多分そうしたことだろうと思う。そしてそれから今日までの間に、私は今の生活からはまるで縁の遠い路を通って、現在の自分とは全く別の私が一人出来上っていたことだろうと思う。巧く行ったら今頃は重役になっていたかもしれないが、そのかわり物理の本当の面白味というものは遂に知らずじまいに終ったであろう。