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てらだとらひこのついそう
寺田寅彦の追想
中谷 宇吉郎
「寺田寅彦の追想」甲文社、1947(昭和22)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,683 字 · 40 页
それでだ。こんな実験をしてもらいたいんだ。水素をゼットから噴き出して、どのくらいの小さいスパークで点火するかを調べてくれ給え」
これが『球皮事件』の発端なのである。湯本君も私も血の気盛りの年頃である。「先生の仇をとるんだ」と、その晩から毎日夜の十二時まで猛勉強を始めるという騒ぎになった。おまけに先生の霞浦行の日は大変寒い日であって、あの吹きさらしの飛行場の寒風の中で、長い時間立たされたのであるから、まだやっと恢復途上にあった先生の身体がもつはずがなかった。「どうも風邪をひいたようだ」と言っておられたが、次の日から三十九度いくらという熱が出たというので、しばらく学校を休まれた。「先生の仇をとる」というのが、ますます実感が出て来たわけである。事実この頃になって先生の日記を読み返してみると、発熱の当夜は「気球の布に Spark を出す実験のような問題が終始頭にコビリついて、同じ事を繰返し繰返し夜中考えていた」とあるくらいで、よほど深刻な印象を受けられたようであった。
この大正十三年の年は、先生の健康がようやく取戻された年であって、五月には理化学研究所の主任研究員も引受けられ、地震研究所の設立にも重要な役割を果され、その後の多方面にわたる華々しい研究の基礎が出来た年であった。