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てらだとらひこのついそう

寺田寅彦の追想

中谷 宇吉郎

「寺田寅彦の追想」甲文社、1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,683 字 · 40 页

青空文庫

寺田先生ほどの学者が、これだけの騒ぎをして、やっと年額一千円の研究費を貰われたのである。これも嘘のような本当の話である。

延期を重ねていた査問会は、二月二十一日に開かれた。田中館、田丸両先生を始め、少将、大佐級の偉い人たちが、十九人狭い実験室にぎちぎち詰めになる。いろいろな電源でスパークを出させ、最後に無電器のスパークで水素に火をつけてみせると、大いに効目があった。「これじゃとても怖くて飛行船には乗れないな」「士気に関する大問題だよ」と小声で話し合っているのが聞える。そのうちに壁の新聞の切抜が目に止まって「おい、これこれ」ということになる。先生は「どうもこんな狭い物置のような部屋で困ります」といい御機嫌であった。

無電を打ちながら水素に点火してみせると、田中館先生が「もっとキャパシティをいろいろかえてやって見たらいいんだが」と言われる。「実は大学にはもうありませんので」というと「それじゃ仕方がないな、こんなもの海軍へ行けばいくらでもごろごろしてる」と、老先生は遠慮会釈なく、大きい声で言われる。先生はひとりでにやにやしておられた。

最後の決定案を作る査問会は、三月四日に海軍省の第一会議室で開かれた。