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ちいさきいえのせいかつ

小さき家の生活

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房、1953(昭和28)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,540 字 · 18 页

青空文庫

けれども、彼の如く、上流の下、或は中の下位の社会的地位の者の家庭に滲み込んで居る、子供としての独立力の欠乏、剛健さの退廃と云うものは、確に自分に頭と一致しない矛盾を与えて居たと思う。

幸、性格的に自分は甘たるい、つんとした、そして弱い生活を嫌う傾向を持って生れた。その為に、素朴な、実質的な、草の如き単純さと同時の真に充実した生活を営むべきことと、営みたいことの希願だけは強くあった。

故に、Aとの結婚は自分を、人間として改造し、見えない無数のアフェクテーションをすてさせるだろうと予覚した。

寧ろ、極貧でないかぎり、富裕でなくてよいと云う心持が、非常に強く自分を支配して居たのである。形式や、据え目や、上品さに煩わされ、流れる水のように自由に生活出来ないことは、実に恐ろしい。芸術家として自己を守り立てようと決心したからは、その力をレデュースし、そのロフティーネスを辱しめるような、あらゆる物は、仮令世上の如何な高貴であっても固辞しようと思ったのだ。

処が、暫く暮して見、自分は、種々な不自由さが、我心の裡に植えられて居るのを発見した。

第一、八百屋、魚屋、そう云う処へ行ったりすることが、ひどく困難に感ぜられる。