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ちいさきいえのせいかつ

小さき家の生活

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房、1953(昭和28)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,540 字 · 18 页

青空文庫

私ばかりではない。結婚、恋愛の問題は、Kにも、Hにも、Sにも起って来るだろう。

幸にして、彼女の希望と一致すれば、何も云うことはない。然し、そう行かなかった場合――第一、彼女が標準とする社会的地位、名望と云うものの標準が異った場合、母上は、又私に於て繰返したと同じ苦悩を経られるのではないだろうか。

自分は、決して彼女が愚でない丈、苦しみの多いのを知り、どうかしてあげたく思う。然し、私の力で、彼女の裡に生え切った性格をどうされるだろう。彼女は左様な点に於ては、私を、子と云う階級の一歩外へも出ることを許されないだろう。

兎に角、私共は、AがK大学に古典を教える目算がついた許りで、新居を探さなければならないことになった。

全く、家なき者!

私共は、もう夏になり、暑い戸外を二人で、空屋から空屋と探して歩いては、失望して、居辛いわが家に帰り帰りした。

「なに、見つかるものかね。Aさんにその気がないもの」

「どうして? でも探して居るのよ。此頃家がないんですものね、困るわ」

「――まあ見て居て御覧。きっと見つからないから」

自分は、母上の皮肉な微笑を、其時理解するに苦しんだ。