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ちいさきものへ

小さき者へ

有島 武郎

「新潮」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,154 字 · 21 页

青空文庫

その時新たな母は私を見て弱々しくほほえんだ。私はそれを見ると何んという事なしに涙が眼がしらに滲み出て来た。それを私はお前たちに何んといっていい現わすべきかを知らない。私の生命全体が涙を私の眼から搾り出したとでもいえばいいのか知らん。その時から生活の諸相が総て眼の前で変ってしまった。

お前たちの中最初にこの世の光を見たものは、このようにして世の光を見た。二番目も三番目も、生れように難易の差こそあれ、父と母とに与えた不思議な印象に変りはない。

こうして若い夫婦はつぎつぎにお前たち三人の親となった。

私はその頃心の中に色々な問題をあり余る程持っていた。そして始終齷齪しながら何一つ自分を「満足」に近づけるような仕事をしていなかった。何事も独りで噛みしめてみる私の性質として、表面には十人並みな生活を生活していながら、私の心はややともすると突き上げて来る不安にいらいらさせられた。ある時は結婚を悔いた。ある時はお前たちの誕生を悪んだ。何故自分の生活の旗色をもっと鮮明にしない中に結婚なぞをしたか。妻のある為めに後ろに引きずって行かれねばならぬ重みの幾つかを、何故好んで腰につけたのか。