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ちいさきりょうしん

小さき良心

梶井 基次郎

断片

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,366 字 · 11 页

青空文庫

しかも出る時他の一人が勘定をしたのを自分はしっている。

細い道を横切って思い切って賑やかな京極へ出る。酒場はそのあちら側の裏だ。

白線を巻いた生徒を見ると誰かじゃないかと思う。誰か友達があるいていたら一緒になろうという気がある。

活動の小屋の横を通る。三味線の流しがきこえてくる。自分は桜の杖が棄ててしまいたかった。気持は最も落付いていた。夏服が冷く肌に応える。辻を曲る。酒場は二軒目だ。垣根ごしにのぞいて見る。

急に冷いものが背中を通った。それからはなんだか夢の中で活動する人間のような気がした。女の叫声を背にきいたような気がする。走れない。しかも呼吸が切れている。

杖が先きまで震えている。石畳の路上を横にそれようとする途端黒い人がつきあたった。

杖が落ちた。次に自分は捕縄をはめられていた。殺人罪だ。垣根越しにのぞき込んだ時の酒場の内部が鮮やかによみがえった。

俺は正しい。俺は正しい。喉にからんで声が出なかった。吐き気がついてからえづきをした。

黒い男は何とも云わずに自分をつきとばした。

(大正十一年)