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ちいさきなにも

小さき花にも

豊島 与志雄

「光」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页

青空文庫

手塚さんの言葉は、そのどちらかをどうぞ、というような調子だった。姉さんには時折縁談があり、不在中にどんなことになるか分らないものだから、万一の場合のため、私の心を惹きつけておきたいのだ。いつも独りでは淋しいのだ。戦争のために心情は荒れてしまっておるし、工場に勤めて製図ばかりやり、生活に潤いがないからだろう。

こんなことを考えるのは、私が冷酷なからであろうか。姉さんはたぶん、私のような考え方はしないに違いない。姉さんは戦争未亡人なのだ。結婚生活は短く、御主人の戦死も公報が来たし、終戦後、実家に戻って来ている。再婚の話も時折ある。その縁談のことなど、手塚さんへどういう風に話しているのかしら。そして手塚さんはどういう風に答えているのかしら。二人は結婚するつもりかしら。手塚さんの病気が故障となってるのかしら。そんなことを、私は考えてみたくないのだ。首縊りのキス、あれだけでもうたくさん。二人の間には肉体の関係まであることを、私はぼんやり知っているが、それも首縊りの必死のキス同然、グロテスクなものに違いない。真の恋愛の清らかさや香り高さは、どこにもあるまい。