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ちいさなできごと

小さな出来事

寺田 寅彦

「中央公論」1920(大正9)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,533 字 · 29 页

青空文庫

のすぐ隣のベータ・ライラの面白い光度の変化を注意させた。それから夜ごとに気を付けて見ていると果して天文雑誌にある予報の通りに光が変るという事実が子供の頭にどういう風に感ぜられたか、それは私には分らなかった。

空を眺めているうちに時々流星が飛んだ。私は流星の話をすると同時に、熱心な流星観測者が夜中空を見張っている話をして、それからいわゆる新星の発見に関する話もして聞かせた。主だった星座を暗記していれば素人でも新星を発見し得る機会はあるという事も話した。

一秒時間に十八万六千マイルを走る光が一ヶ年かかって達する距離を単位にして測られるような莫大な距離をへだてて散布された天体の二つが偶然接近して新星の発現となる機会は、例えば釈迦の引いた譬喩の盲亀百年に一度大海から首を出して孔のあいた浮木にぶつかる機会にも比べられるほど少なそうであるが、天体の数の莫大なために新星の出現はそれほど珍しいものではない。ただ光度の著しく強いのが割合に稀である。

こんな話よりも子供を喜ばせたのは、新星の光が数十百年の過去のものだという事であった。わが家の先祖の誰かがどこかでどうかしていたと同じ時刻に、遠い遠い宇宙の片隅に突発した事変の報知が、やっと今の世にこの世界に届くという事である。