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ちいさなできごと

小さな出来事

寺田 寅彦

「中央公論」1920(大正9)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,533 字 · 29 页

青空文庫

五 幼い Ennui

夏休み中に一度は子供等を連れて近くの海岸へ日返りの旅をするのが近年の常例になっていた。その以前には一週間くらい泊りがけで出かける事にしていたが、そうするときっときまったように誰かが転地先で病気をした。ある年は母がひどい腸加答児に罹って半年ほど後までも祟られた。またある年は父子三人とも熱が出たり腸を害したりして、不安心な怪しげな医者の手にかからねばならなかった。そのうちに知人のある者は保養地で疫痢のために愛児を亡くしたりした。それでもう海水浴というものが恐ろしくなって、泊りがけに行く気にはなれなくなってしまった。それでも一度も行かないのは子供等に気の毒なような気がするので、日返り旅行という事を考えついてそれにきめていたのである。子供等はそれでも十分に満足していたようである。

今年は自分が病気で行かれない事になった。のみならず二人の男の子も健康に故障があって旅行はあまり望ましくなかったので、とうとうどこへも行かない事にきめた。その代りに銘々に何か望みの本や玩具を買ってやる事にして、それで現代が生み出したこの一種の新しい父親の義務といったようなものを免してもらう事にした。