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こゆびいっぽんのおおじあい

小指一本の大試合

山中 峯太郎

「少年倶楽部」講談社、1931(昭和6)年1月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,932 字 · 13 页

青空文庫

ふいに、

「こい!」と、小指をヒクヒクふると、

「…………」ブルが顔をしかめて、ビクッとする。

「ワアーッ」と、見物人はますます声をあげる。

「こい!」

「…………」ブル、まっさおだ。汗をながしてる。

「ワアーッ」バチバチバチバチ。「ワアーッ」

「こい!」ヒクヒク。

「…………」ブル、まったく汗だらけだ。

「あと二十秒!」フランクがいう。

「…………」ブル、また赤くなってきた。

「こい!」ヒクヒクヒク。

「…………」ブル、目がすわってきた。

「あと十秒! ……五秒! ……」

フランクのことばとともに、そのとき、サッとブルが小指へとびかかってきた、眼にもとまらぬ電光石火、ハッと身をしずめたぼく、頭の上にブルの腕と胸がのびてるやつを、そのままの背負いなげ! 敵の力で敵をなげる柔道の、これこそ術だ、みごとにきまって、

「エエイッ!」

ブルのでかいからだがかるくて紙一枚のようだ、とびかかってきた自分の力でさかおとしに、ドスーンとむこうへ宙返りを打った、と、ぼくはヒラリと左の小指を上げた。

見物人が総立ちになった、さあたいへんだ! ツンボになるような「ワアーッ、ワワワワワ――」という声が、ぼくの小指一本にあつまってる。