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しょうけい

小景

宮本 百合子

ふるき市街の回想

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,323 字 · 15 页

青空文庫

が、目ざして行く停留場から、半丁程も手前に来た時、不図或るものを見つけ、私はそれとない様子で鋪道からそれた。

隙を見て雑踏する車道を突きり、例の桃色塗の料理店の下に立った。電車はまだ彼方の遠い角にも姿を現わさない。

群集の間から、私は、自分がそれて通った彼方側の街頭を眺めやった。

小刻みに上下に揺れ揺れ流れ動く人波の上に、此処からでも、婦人帽の白い羽毛飾が見えた。黒繻子の頂や縁も。

然しそれは、鋪道一体の流れに沿うて前か後に進みきる様子はなく、距離にしたら五六間もない空間で、前後左右に漂っている。

渦にでも捲かれているように、人波に逆らい七八歩も黒い頂を傾け浮いて行ったかと思うと、ひらりと白羽毛飾を向き更らせ、皆の来る方に動いている。が決して、十字街の此方に車道を踰えようとはしなかった。暫く鋪道の端れの一箇処で羽毛飾が揺れると見ているうちに、再び、気をとりなおしたように、痛々しく帽子の大きな縁をかしげて群集の間を新たな力で溯り始めるのだ。

その婦人帽の動作には、何とも云えず看る者の心を打つものがあった。苦しい程熱心な、疲れても疲れてはいられないと云う悲しい張が、特に、再び人群を溯ろうとし始める瞬間、私の心まで刺すのであった。