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こむらたんさい
小村淡彩
宮本 百合子
「女性」1926(大正15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,488 字 · 23 页
「まあ、こちらにおあがり」
ろくは、やっぱり何だか手間のかかる外鰐(そとわ)の歩きつきで、帳場の傍へ上った。彼女は、手をついて、
「何にも出来ませんが、どうぞよろしく」
と挨拶した。その調子は、もう自分はこの家にいられるものときめこんで安心しているようであった。
いしは、迷惑なような、擽ったいような心持がした。ろくには、多くの女のように、一目で家の中まで見廻すような小憎しい狡いところがない代り、明かに足りなそうなところがあった。足りなくても、色でも白く、見た目がよければまた別だが……。いしは、ろくに訊いた。
「お前さん、奉公は始めてかい」
ろくは、唇の裏に唾がたまり過ぎているような言葉つきで、
「いいえ、鎌倉の方にもいました」
と答えた。
「お茶屋かい?」
「いいえ、親類の家」
「そうだろうね、客商売でそのなりってこたあないものね」
ろくは、髪を銀杏返しに結い、黒ぽい縞の木綿着物に、更紗の帯をしていた。髪も帯も古かった。けれども、彼女自身は、一向女房の言葉も、自分のじじむさい身なりにも頓着せず、楽々横坐りに坐っている。いしは、その写楽まがいの顔の口許にだけほんの微笑らしい歪を現わし、正面から凝(じっ)と様子を眺めていたが、やがて重次に云った。